日本保育学会の学会誌「保育学研究」の最新号に、戸田雅美先生(東京家政大学)の論文が掲載されています。
わが師匠である、戸田先生は、今回
「これまで違う状況の中で保育をしてきた者同士が、同じ場で保育行為の連携をすることになるため、様々な違和感を感じながらも、理解を深めることができず、真の保育行為の連携の成立が困難になっている」状況について
その「問題の構造を、理論的に明らかにし、そこで明らかになった問題の構造の具体的な内実を、一つの事例を通して検証」し
「連携の困難の解決に向けて」の手がかりを提示したい、と今回の論文を書かれたそうです。
そのために、「保育行為における価値の対立と連携の関係」を、「あえて二つの直行する軸に分けて表すことで、日常的には渾然としたままにとらえられている問題の構造をとらえる」ことにチャレンジされています。

この図は、同書の204ページの図1を再現したものです。
小さいのでクリックしていただくと多少大きくなります。
座標軸の
右上(Aの領域)は「価値の対立がなく、かつ、連携する」
右下(Bの領域)は「価値の対立があり、かつ、連携する」
左上(Cの領域)は「価値の対立がなく、かつ、連携しない」
左下(Dの領域)は「価値の対立あり、かつ、連携しない」
という関係になります。
Aの領域では・・・保育行為をめぐっての意見交換が容易な状況になります。
Bの領域では・・・実際には相手の価値との対立を避けるために、とりあえず「合わせる」ということが起きます。この場合の問題は、「合わせる」立場の保育者が固定化される場合だと指摘しています。
Dの領域では・・・価値の対立を自覚したとしても相手に合わせるという選択はしないという状況ですが、この場合「その保育者との関係の中での一貫性は守られるが、子どもが育つ場としての幼稚園や保育所の全体としては、一貫性を持った安定感のある保育が保障されない」状態だと戸田先生は指摘します。
なお、Cの領域は実際にはありえないので本論では触れていません。
さて、Aの領域について戸田先生は、「理論的には、価値について、強いリーダーシップを発揮する存在のある園でこのような状態になる」としますが、「特に強いリーダーシップを発揮する」人間がいなくてもAの状態になることはあります。
戸田先生は、「研修の機会が多く、何を「善きこと」と判断するかに関する自分の意見を公開したり、自由に議論をする機会がある」とそのようになるといいます。
ただ、このような場合にも問題はあり、保育者同士の連携がしっかりしているために、実は、子どもにとって「善きこと」になりえていない場合が生じているときに気づきにくい、という可能性を指摘しています。
ところで、今回の冬季セミナーの1日目、3つの保育現場からの実践報告を、戸田先生の構図に当てはめて考えてみたいと思います。
(思いっきり私見です。報告された皆さんの思いと違っていたら・・・東大の中原先生ではありませんが便所スリッパを松山まで投げ飛ばしてください・・・)
①仁慈保幼園・・・園長先生の強いリーダーシップで、「何を善きこととするか」いう理念の浸透を図ったという「話」として見えてきます。
②若葉台バオバブ保育園・・・自分の意見の公開や自由に議論する機会を増やすための工夫を、特に強いリーダーシップではなく取り組んだ「話」として見えてきます。
③松山東雲附属幼稚園・・・保育行為の意味の理解をしているつもりだったが、何度も何度も何度も振り返るという状況が生じ、その中で「合わせる」ということが起きていたことに気づき、意味を理解した上で合わせていたのか、意味を理解せずに合わせていたのかを吟味する結果になってしまったという「話」としても見えてきます。
①と②はシンプルな見え方なのですが、③は何だか複雑ですよね。
多分Aの領域では、その園の歴史として3つのフェーズを経るということが起きるのではないかと考えられます。
(必ずとはいえませんが・・・)
第一のフェーズ:園長先生のリーダーシップなどで、メンバーに理念の浸透が図られる時期
第二のフェーズ:リーダーシップから離れて、個々のメンバーが自由に語りたいという機運が生じる時期
第三のフェーズ:連携がうまくいくようになることで逆に気づきにくさが生じている可能性に対して、メンバーの目が開かれる時期
かといって、第二のフェーズや第三のフェーズでは、リーダーシップの関与が全くなくなるのか、といえばそうではないと思います。
リーダーシップの質の変化があるのでしょうね。
今回、仁慈保幼園の報告は、園長先生からのお話でしたので、リーダーシップが前面に出てきた感がありますが、園の他のメンバーから見た話として語られると、違ったストーリーとして語られるはずです。
その話も、是非聞いてみたいですね。
勝手なことを書き連ねましたが、それほど、様々なことを考えさせられる刺激の多い実践報告でした。
今回実践報告をしていただいた皆さん、本当にありがとうございました。
(松山東雲 相馬)
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